1.さびしい / 君にそばにいて欲しかったこと
Side H
俺は素直じゃない。そんなのは百も承知だけど、そろそろ素直になった方がいいということだって、百も承知だ。
「…遅い…」
ぽつりと呟いてみても、ドンへが帰ってくるわけではない。
ドラマの共演者と飲み会だと言ってまだ帰ってきていないドンへは、今日俺と服を買いに行くという約束をすっかり忘れている。
例え今帰ってきても買いに行けるわけではないけど、どうしても待っていたい。
ここで俺が素直な人間だったら、ドンへに電話をして、早く帰ってこいとか、約束はどうしたんだかと、
ちゃんと言ってやるんだろうな。寂しいの、一言も。
それができないんだから俺は、よくみんなに言われるように、素直じゃない。
だからって、約束をすっぽかされてまで何も言えないのは、素直じゃないとはちょっと違う。
それじゃあなんだか、俺がドンへに気を使っているみたいじゃないか。ないない、そんなわけない。
「…今なら、大丈夫、だよな…」
俺は小さく一人ごちて、携帯のアドレス帳からドンへを選ぶ。
ちょっとだけ。ちょっと喝を入れてやって、約束は延期だって言い放ってやって…それだけ。
呼び出し音が耳を震わす。なんで俺、こんな緊張してるんだろう。
別にかまってほしくて電話するんじゃないし、
あ、でも、ドンへ酔ってたらどうしよう…
一応御開きに掛かった時間だと思って電話したけど、もしかして二次会とか…
「んー…もしもし…」
呼び出し音を聞きながら悶々と考え込んでいると、いきなり舌足らずな声が呼び出し音と切り替わる。
慌てて声を出そうとしたのに、なぜか言葉が喉に詰まって、
あれ?と思う間もなく、ドンへが眠そうな声をあげた。
「ちょっとぉ…もーしもーし…」
「あ、え、と…ど、どんへ…?」
「あれぇ?ヒョクチェ?」
「あ、と…うん…」
「んー…なにぃ…」
どうしよう、どうしよう。何から言えばいいんだろう。
やっぱりドンへは酔っている。でも、俺がそれに惑わされる必要なんてない。そうだ、いつも通りに…
「ど、どんへ!お前、今日服買いに行くって約束しただろ!」
「えぇー…したっけぇ…」
「し、した!なのになんですっぽかしてんだよ!!」
「だってぇーしごとはしかたないでしょー…」
「なら謝るくらいしろよ!見事に忘れやがって…」
「うー…ごめんごめん…」
「ったく…もうしばらくはお前と買い物行かないからな!約束は超延期!!」
「へーいへーい……んじゃねぇー」
「あ、あと、ドンへ、」
「んー?」
「………あ、あんま飲み過ぎんなよ…」
へへーと通話口の向こうでドンへが笑って、プツリと終話ボタンが押される。
妙な空虚感が漂ってきて、俺はたまらずソファのクッションに顔を埋めた。
違う、違う。本当に言いたかったのは、そんな事じゃないのに…。
本当に、俺はたったの一言だって言えないほど、素直じゃない人間なんだ。
何でだろう。言ってしまえば二秒とかからない言葉なのに、何がそんなに難しいんだろう、相手がドンへだからだろうか。
さびしい、だけなのに。
Side H
俺は素直じゃない。そんなのは百も承知だけど、そろそろ素直になった方がいいということだって、百も承知だ。
「…遅い…」
ぽつりと呟いてみても、ドンへが帰ってくるわけではない。
ドラマの共演者と飲み会だと言ってまだ帰ってきていないドンへは、今日俺と服を買いに行くという約束をすっかり忘れている。
例え今帰ってきても買いに行けるわけではないけど、どうしても待っていたい。
ここで俺が素直な人間だったら、ドンへに電話をして、早く帰ってこいとか、約束はどうしたんだかと、
ちゃんと言ってやるんだろうな。寂しいの、一言も。
それができないんだから俺は、よくみんなに言われるように、素直じゃない。
だからって、約束をすっぽかされてまで何も言えないのは、素直じゃないとはちょっと違う。
それじゃあなんだか、俺がドンへに気を使っているみたいじゃないか。ないない、そんなわけない。
「…今なら、大丈夫、だよな…」
俺は小さく一人ごちて、携帯のアドレス帳からドンへを選ぶ。
ちょっとだけ。ちょっと喝を入れてやって、約束は延期だって言い放ってやって…それだけ。
呼び出し音が耳を震わす。なんで俺、こんな緊張してるんだろう。
別にかまってほしくて電話するんじゃないし、
あ、でも、ドンへ酔ってたらどうしよう…
一応御開きに掛かった時間だと思って電話したけど、もしかして二次会とか…
「んー…もしもし…」
呼び出し音を聞きながら悶々と考え込んでいると、いきなり舌足らずな声が呼び出し音と切り替わる。
慌てて声を出そうとしたのに、なぜか言葉が喉に詰まって、
あれ?と思う間もなく、ドンへが眠そうな声をあげた。
「ちょっとぉ…もーしもーし…」
「あ、え、と…ど、どんへ…?」
「あれぇ?ヒョクチェ?」
「あ、と…うん…」
「んー…なにぃ…」
どうしよう、どうしよう。何から言えばいいんだろう。
やっぱりドンへは酔っている。でも、俺がそれに惑わされる必要なんてない。そうだ、いつも通りに…
「ど、どんへ!お前、今日服買いに行くって約束しただろ!」
「えぇー…したっけぇ…」
「し、した!なのになんですっぽかしてんだよ!!」
「だってぇーしごとはしかたないでしょー…」
「なら謝るくらいしろよ!見事に忘れやがって…」
「うー…ごめんごめん…」
「ったく…もうしばらくはお前と買い物行かないからな!約束は超延期!!」
「へーいへーい……んじゃねぇー」
「あ、あと、ドンへ、」
「んー?」
「………あ、あんま飲み過ぎんなよ…」
へへーと通話口の向こうでドンへが笑って、プツリと終話ボタンが押される。
妙な空虚感が漂ってきて、俺はたまらずソファのクッションに顔を埋めた。
違う、違う。本当に言いたかったのは、そんな事じゃないのに…。
本当に、俺はたったの一言だって言えないほど、素直じゃない人間なんだ。
何でだろう。言ってしまえば二秒とかからない言葉なのに、何がそんなに難しいんだろう、相手がドンへだからだろうか。
さびしい、だけなのに。
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