3.行かないで / 君と離れたくなかったこと
Side H
彼女ができたから、なるべく一緒にいたい、なんて、そんなの理由になってないよ。
俺たち、ずっと一緒だったじゃんか。辛いことも全部、一緒だから乗り越えられたんだろ?
なら何で今更宿舎を出てくなんて言うんだよ。
お前がやってることは、ただの自己満足だろ?
メンバーのことも考えろよ。それが、いつものお前だろ。
一晩かけて考えた、俺渾身の引き留める方法。
これしかなくて、俺はドンへを部屋に呼んだ。
理屈っぽく話せば、ドンへは納得するって分かっていた。
俺は狡い。でもこうでもしないと、ドンへがいなくなってしまう。
「…な?だから、引っ越しなんて考え直した方が…」
「…なんで?」
「へ?」
「何で俺のこと、全部ヒョクチェが決めなくちゃいけないの?」
これでいけると思ったのに。ドンへはじっと俺の目を見て、追い詰めるように問いかけた。
知らない。こんなドンへ知らない。いつの間に変わってしまったんだろうか。
彼女ができてから?もう、ドンへは俺を置いてくの―?
「ヒョクチェの言うとおり、辛いことを乗り越えてきたのは、一緒にいたからだよ。
でも、メンバーと同じように、一緒にいたい人ができたんだ。
辛いこと、一緒に乗り越えていきたいって思う人ができたんだよ。」
「…ど、ん、」
「俺、もうヒョクチェなしじゃ生きていけないような人間じゃないんだ。
何言われても、出ていくつもりだから。」
―何を、言ってるんだろう…
ドンへはずっと変わらない。俺のことが大好きで、俺なしじゃ何もできなくて。
前にドンへは言ってくれた。「お前なしじゃ生きていけない」、と。「他の人の話を聞くな」、と。
嬉しかった。あの頃は単純に嬉しかっただけだけど、今は違う。
この間、ドンへと後輩が楽しそうに話しているのを見て、仲良さげにしているのを見て、
俺はやっと自分の気持ちに気づいた。
ドンへが好きだ。メンバーとか、親友とか、そう言った意味じゃなくて。
だからそんな今、あの頃のドンへの言葉だけが、俺を安心させてくれていたのに。なんで…
「………なんだよ、それ…」
「ヒョク?」
「…ッ何だよそれ!!お前が言ったことは全部嘘だっていうのか!?」
「ひょ、」
「信じてた俺がバカみたいじゃんか!俺は…俺は今のお前なんか大嫌いだ!!嘘つき!!!」
嘘つき、生きていけないって言ったじゃん。彼女ができれば、俺は必要ないの?
この関係に甘んじてた俺が全部いけないの?
ねえドンへ、なんで、どうして…
感情を線がプツリと切れたら、後はもう勢いだけが残る。
ぽろぽろと頬を暖かい雫が伝って、視界がどんどん朧になっていく。
ドンへは大人になっていく。俺なんかの手が届かないくらい。
彼女ができて、彼女を大切にして…いつかは結婚して、幸せになる。
俺じゃあ、一生かかっても届かない。そんなところに、ドンへは行こうとしている。
いやだ、いやだ。そんなの嫌だ。親友でいいよ。友達のままがいい。
ドンへの中で一番気が合って、頼れて、心を許せる、そんな俺がいい。今のまま。
遠くに行かないで、ドンへ――
「……俺、ちょっと頭冷やしてくる」
ひくひくと泣きじゃくる俺の頭に一瞬だけ愛しい温もりが置かれる。
驚いて顔をあげると、今にも泣き出しそうな顔をしたドンへが、そう言って俺に背を向けた。
今までだったら、こんな時、ドンへも一緒になって泣いて、お互い気が済むまで泣いたら、
どちらともなく謝って、笑い合っていたのに。
やっぱりドンへは大人になっていく。
なのに俺はまだ、一番大切なことを言えない、あの頃のままだ。
行かないで、傍にいて。
Side H
彼女ができたから、なるべく一緒にいたい、なんて、そんなの理由になってないよ。
俺たち、ずっと一緒だったじゃんか。辛いことも全部、一緒だから乗り越えられたんだろ?
なら何で今更宿舎を出てくなんて言うんだよ。
お前がやってることは、ただの自己満足だろ?
メンバーのことも考えろよ。それが、いつものお前だろ。
一晩かけて考えた、俺渾身の引き留める方法。
これしかなくて、俺はドンへを部屋に呼んだ。
理屈っぽく話せば、ドンへは納得するって分かっていた。
俺は狡い。でもこうでもしないと、ドンへがいなくなってしまう。
「…な?だから、引っ越しなんて考え直した方が…」
「…なんで?」
「へ?」
「何で俺のこと、全部ヒョクチェが決めなくちゃいけないの?」
これでいけると思ったのに。ドンへはじっと俺の目を見て、追い詰めるように問いかけた。
知らない。こんなドンへ知らない。いつの間に変わってしまったんだろうか。
彼女ができてから?もう、ドンへは俺を置いてくの―?
「ヒョクチェの言うとおり、辛いことを乗り越えてきたのは、一緒にいたからだよ。
でも、メンバーと同じように、一緒にいたい人ができたんだ。
辛いこと、一緒に乗り越えていきたいって思う人ができたんだよ。」
「…ど、ん、」
「俺、もうヒョクチェなしじゃ生きていけないような人間じゃないんだ。
何言われても、出ていくつもりだから。」
―何を、言ってるんだろう…
ドンへはずっと変わらない。俺のことが大好きで、俺なしじゃ何もできなくて。
前にドンへは言ってくれた。「お前なしじゃ生きていけない」、と。「他の人の話を聞くな」、と。
嬉しかった。あの頃は単純に嬉しかっただけだけど、今は違う。
この間、ドンへと後輩が楽しそうに話しているのを見て、仲良さげにしているのを見て、
俺はやっと自分の気持ちに気づいた。
ドンへが好きだ。メンバーとか、親友とか、そう言った意味じゃなくて。
だからそんな今、あの頃のドンへの言葉だけが、俺を安心させてくれていたのに。なんで…
「………なんだよ、それ…」
「ヒョク?」
「…ッ何だよそれ!!お前が言ったことは全部嘘だっていうのか!?」
「ひょ、」
「信じてた俺がバカみたいじゃんか!俺は…俺は今のお前なんか大嫌いだ!!嘘つき!!!」
嘘つき、生きていけないって言ったじゃん。彼女ができれば、俺は必要ないの?
この関係に甘んじてた俺が全部いけないの?
ねえドンへ、なんで、どうして…
感情を線がプツリと切れたら、後はもう勢いだけが残る。
ぽろぽろと頬を暖かい雫が伝って、視界がどんどん朧になっていく。
ドンへは大人になっていく。俺なんかの手が届かないくらい。
彼女ができて、彼女を大切にして…いつかは結婚して、幸せになる。
俺じゃあ、一生かかっても届かない。そんなところに、ドンへは行こうとしている。
いやだ、いやだ。そんなの嫌だ。親友でいいよ。友達のままがいい。
ドンへの中で一番気が合って、頼れて、心を許せる、そんな俺がいい。今のまま。
遠くに行かないで、ドンへ――
「……俺、ちょっと頭冷やしてくる」
ひくひくと泣きじゃくる俺の頭に一瞬だけ愛しい温もりが置かれる。
驚いて顔をあげると、今にも泣き出しそうな顔をしたドンへが、そう言って俺に背を向けた。
今までだったら、こんな時、ドンへも一緒になって泣いて、お互い気が済むまで泣いたら、
どちらともなく謝って、笑い合っていたのに。
やっぱりドンへは大人になっていく。
なのに俺はまだ、一番大切なことを言えない、あの頃のままだ。
行かないで、傍にいて。
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